2023.10.6
断熱とお金 前編
断熱とお金 こんにちは!設計の上村です。家づくりをお考え中の皆さん、どうせ家を建てるならいい家を建てたいって思いますよね。 良い家の条件はひとつじゃありませんが、その中の一つに「断熱性能」があります。ZEH(ゼッチ)って一度は聞いたことありますよね。あれも従来より少ないエネルギーで暮らせるだけの断熱性能を持った家なんです。 でもイマイチよくわからない、どのくらいの性能があればいいの?といった疑問にお答えします! 今回の記事はかなり詳しく解説&シミュレーションをしましたので、前編後編に分けてお伝えしようと思います。かなりガチな内容ですので、頭をスッキリさせてからお読みください。 目次前編用語の説明シミュレーション①UA値が変わるとエネルギー消費量はどうなるかコラム - 断熱を高めると暑くなる?-シミュレーション②η値が変わるとエネルギー消費量はどうなるかシミュレーション③UA値とη値を同時に変えると?後編費用対効果と落としどころ断熱のデメリットとパッシブデザイン 用語それぞれの指標についてについて説明します。 建物の断熱に関わるあらゆる数値を計算式に入力すると、“UA(ユーエー)値・η(イーター)値”という数値を算出できます。 「UA値」建物の内と外とを分ける境界の屋根・壁・床の部分が、どれくらい"熱を通しやすいか”を数値で表したものです。数値が大きいほど熱が伝わりやすく、逆に小さいほど熱が伝わりにくく、保温が効くという指標です。 「η値」日射からどのくらい家の中に熱として入ってくるかを数値で表したものです。数値が大きいと日射から熱がたくさん入ります。小さいと逆で日射からの熱の影響が小さくなります。夏場用のηAc値と冬場用のηAh値とに分かれます。AはAverageのA、CはCooling(冷房)の頭文字)、HはHeating(暖房)の頭文字を組み合わせたものです。 そしてこの数値を使って最終的に家で使用する電気やガスを一次エネルギー消費量という指標で表します。 「一次エネルギー消費量」 その建物で1年間暮らした時の消費エネルギー量の合計を“一次エネルギー消費量”という数値で表します。暖房、冷房、換気、給湯、照明に使うエネルギーに加え、その他として家電や調理に使うエネルギーを合計した数値を設計一次エネルギー消費量といい、単位はJ(ジュール)を用います。家庭で使用するエネルギーには電気とガスがあるので、同じ単位で評価するために熱量であるJを用います。“一次”とあるのは発電側の原料(石油や地熱など)を表現するためです。 そしてエネルギー量を分かりやすくするためお金に換算します。断熱性能を良くするためにかけるお金を単純に「断熱材費用」とします。 「断熱材費用」窓を除く部分には断熱材とよばれる材料を詰めたり吹き付けたりします。この断熱材の費用です。断熱材が厚くなるほど費用が増えます。 「節約できた金額」政府が補助金を出す際に“一次エネルギー消費量をどのくらい削減できるか”に一定の基準値を設けます。その計算をするWEBサイトがあり、そこで計算された数値を電気代に換算したときの金額を「節約できた金額」とします。 電気代換算一次エネルギー(J:ジュール)を受電側である電力量(kWh: キロワットアワー(1時間あたり何キロワット電気を使ったか))に換算するには、一次エネルギーに発電効率を掛けたものを1kWhの物理量3.6MJで割ります。kWhに各電力会社が設定する単価を掛けると電気代が分かります。 これら「UA値」「η値」「一次エネルギー消費量」「断熱材費用」「省エネできた金額」の相関関係をみていきます。 UA値のみ変更した場合の一次エネルギー消費量 まず断熱性能とエネルギー消費量の関係を捉えましょう。WEB計算サイト(HP)を利用して、建物の断熱性能であるUA値を少しずつ変えていった時の一次エネルギー消費量の変化をみていきます。 変数であるUA値には省エネルギー基準の最低値である0.87(鹿児島の場合)から断熱の最高等級である等級7の0.26までの値をとり、0.01ずつ変えながら計算していきました。 純粋なUA値のみを変化させていった時のエネルギー消費量の挙動をみるため、現実には有り得ませんがη値を2.7で固定しました。 結果として、UA値が小さくなる(断熱性が良くなる)に従って暖房消費エネルギーは減っていきました。逆に冷房消費エネルギーは増加しました。総体では減少しました。 その差は【UA値0.87の時83,814】- 【UA値0.26の時78,148】=5,666MJ。電気代換算すると5,666MJ×発電効率(全日)0.369÷3.6MJ=約580kWh。 電気代単価は九州電力を参考とし全日23円/kWhを採用し、580kWh×23円/kWh=13,340円(年)となりました。 6項目(暖房、冷房、換気、給湯、照明、その他)ある一次消費エネルギーのうち暖房と冷房のみグラフにしているのは、断熱性能が影響を及ぼす項目がこの2つだけだからです。 コラム-断熱を高めると暑くなる?- 上のグラフで断熱性能は良く(UA値が小さく)なったのに冷房のエネルギー消費量は増えました。という事は、冷房を使う時間が増え、体感的に暑く感じる時間が増えたということです。 でも直感的に「断熱が良くなると夏も涼しいのでは?」と思いますよね。なぜでしょうか。 断熱性能が良いということは、=保温能力が高いということです。 つまり計算上は、夏場に冷房のスイッチを入れることになっている「室温24℃」の境界より高くなる時間帯が長いということ。 断熱性能がゼロの建物の場合を考えてみましょう。断熱性がないという事は外気温と室温がシンクロします。 外気温が24℃を超えれば(室温も同じなので)冷房のスイッチを入れ、24℃を下回ればスイッチを切るとします。この間に冷房エネルギーが消費されます。 実は、日中においては外気温からの熱の流入に加え日射からも絶えず熱を取得します。夏場、断熱性がゼロの建物なら外気温+日射の熱で建物内部は常に加熱されます。こちらの室温シミュレーションをご覧ください。 ”次世代省エネ基準”と呼ばれるかなり断熱性能の良い家を、夏のある日まったくの無冷房でおくとどのような室温の変化になるかをシミュレーションソフトを使ってグラフにしたものです。 外気温のピークの12-15時を過ぎた後も日射があるため、室温は上昇を続け日が沈んだと思われる18時過ぎから(断熱効果で)ゆっくりと下っていきます。 室温が38℃ならば設定温度の24℃との差分14℃分の熱を屋外に捨てようとエアコンがフル稼働します。設定温度(ここでは24℃)との差が大きいほどエアコンが電気をたくさん使って冷やそうとしますが、これが“冷房負荷が大きい”状態です。 次に外気温が下がっていく場面を考えます。 断熱材ゼロの建物は外気温と室温がシンクロするので24℃を下回った時点で冷房はオフです。 断熱性能の高い建物はどうでしょう。断熱には建物の内と外との熱の移動を遅くする効果があります。 つまり外気温が下がっていって24℃を下回っても、断熱性能が高い建物では昼間の日射から得た熱その他諸々が保温され、放っておけば室温は24℃をなかなか下回らず、冷房を使う時間帯が長くなるというわけです。 結果、冷房エネルギー消費量が増えるのではないかと推察します。 断熱を高めると夏も冷房いらずと考えがちですが、「冷房負荷」という考え方では貫流負荷、日射負荷、室内負荷、外気負荷の4種類があり、断熱材による断熱性能はこの内「貫流負荷」を小さくするのみです。 つまり壁や屋根から伝わる熱をいくら防いでも、日射により侵入してくる熱、室内から発生する熱、換気や隙間風から侵入してくる熱というものがあり、どうしたって「断熱性能をよくすれば冷房いらず」とはいかないのです。 これは「断熱性能が良ければ良い建物ほど、冷房を入れない限り外より暑い(断熱性能が悪い建物より冷房の効き自体は良い)」という実体験に合致します。 この現象は、冬場は逆に室内を暖かく、暖房負荷を減らす(暖房を使う時間が減る)のに役立ちます。 η値のみ変化させた場合の一次エネルギー消費量 次にη(イーター)値を少しずつ変えていった時の一次エネルギー消費量の変化を見てみましょう。UA(ユーエー)値は最低限の0.87で固定しました。 固定した理由は前のグラフと同じで純粋にη値(日射熱取得率といいます)が一次エネルギー消費量にどう影響するかを見るためです。 結果は、先ほどとは逆にη値が小さくなるほど(日射から室内に熱が入りにくくなるほど)暖房消費エネルギーは増加し、冷房消費エネルギーは減りました。 日射から受け取る熱が減ると室内が暖まりにくくなり、冬場は暖房を使う時間が増え、逆に夏場は冷房を使う時間が減ります。 総体ではプラスマイナスゼロではなくわずかに減少しました。その差は83,814-82,223=1,591MJで電気代に換算すると3,750円/年となりました。 UA値とη値を同時に変化させた場合の一次エネルギー消費量 今度はより現実に近い条件でシミュレーションします。 というのも、現実の建物では断熱材を厚くしてUA値を小さくすると、それに伴ってη値も小さくなるからです。 なので次は現実的な建物同様、UA値とη値を同時に変化させながら一次エネルギー消費量の挙動をみていきます。 結果、今度は暖房消費エネルギー、冷房消費エネルギー共に減少し、総体も減少しました。 その差は 83,814MJ-72,436MJ=11,378MJ。電気代換算で26,823円(年)の節約です。つまり断熱性能を良くしていくとそれに伴い日射熱取得率(η値)も減少し、暖房も冷房も負荷が減るということが結論づけられます。 つまり先のグラフから UA値を良く(小さく)すると:冷房消費エネルギー増、暖房消費エネルギー減η値を良く(小さく)すると:冷房消費エネルギー減、暖房消費エネルギー増 で、互いに増減を打ち消しあっているように見えますが、増減の幅は完全に同じではなく冷房も暖房も消費エネルギーは減る方が優勢。 だから総体の一次エネルギー消費量は減る結果となったと考えられます。 これは鹿児島を含む7地域(比較的温暖な気候に分類される省エネ基準上の地域分類)だからこその結果です。比較的寒冷な1~6地域や沖縄を含む8地域ではまた結果は異なるでしょう。 後編へ続きます。